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大阪高等裁判所 昭和53年(行コ)7号 判決

控訴人 ジヤガツト・ナラヤン・ジヤスワル ほか四名

被控訴人 法務大臣 ほか一名

訴訟代理人 細川俊彦 西谷忠雄 ほか三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人ら代理人は、「原判決を取消す。控訴人プリテイ・ジヤスワル、同プリムラタ・ジヤスワル、同プラテイバ・ジヤスワルの各訴を神戸地方裁判所に差戻す。被控訴人法務大臣が控訴人ジヤガツト・ナラヤン・ジヤスワル、同ラダ・ラニ・ジヤスワルに対し昭和四八年一〇月二六日付でした各在留期間更新不許可処分を取消す。被控訴人法務大臣が控訴人ジヤガツト・ナラヤン・ジヤスワル、同ラダ・ラニ・ジヤスワルに対し右控訴人らの出入国管理令四九条一項に基づいてした異議の申出を棄却する旨の昭和四九年七月二九日付各裁決を取消す。被控訴人神戸入国管理事務所主任審査官が控訴人ジヤガツト・ナラヤン・ジヤスワル、同ラダ・ラニ・ジヤスワルに対し昭和四九年八月一二日付でした各強制令書発付処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりである(但し、原判決五枚目裏八、九行目の「在留期間一八〇日、在留資格四-一-一六-三の許可を受けて」を「令四条一項一六号、省令一項三号に該当する者としての在留資格を認定され、在留期間を一八〇日と決定され、」と同末行の「在留期間六〇日、在留資格四-一-四の許可を受けて」を「令四条一項四号に該当する者としての在留資格を認定され、在留期間を六〇日と決定され、」と各訂正し、同六枚目表九行目の「裁決がなされ」の次に「、その旨の通知を受け」を付加し、同一一枚目裏八行目の「(ニ)」を「(二)」と訂正し、同一二枚目裏一行目の「YMCA」を「ワイ・エム・シー・エイ」と訂正し、同一四枚目裏八行目の「出国したこと、」の次に「控訴人ラダ・ラニが昭和四三年四月三日、その余の控訴人らが同年八月一四日に各入国したこと、」を付加し、同一九枚目裏一〇行目の「懲役六月執行猶予三年」を「懲役六月(三年間の執行猶予)及び」と訂正し、同二〇枚目裏六行目の「仮に、」を削除し、「右原告らが」を「右控訴人らは」と、同八、九行目の「ものであると解しても」を「か」と、同一〇行目の「許可」を「許否」と各訂正し、同二一枚目表一一、一二行目の「ものと解される」を削除し、同二二枚目表七行目の「(二)の(4)」を「(二)の(3)」と訂正し、同二二枚目裏二行目の末尾に「同3、4はいずれも争う。」を付加する。)からここにこれを引用する。

(控訴人らの主張)

1  被控訴人法務大臣は、昭和四五年五月八日付で、控訴人プリテイ・ジヤスワル、同プリムラタ・ジヤスワル、同プラテイバ・ジヤスワル(以下順次プリテイ、プリムラタ、プラテイバといい、右三名を以下プリテイら三名という。)が出入国管理令四九条一項に基づいてした異議の申出を棄却する旨の裁決をし、被控訴人神戸入国管理事務所主任審査官(以下主任審査官ともいう。)は同日付で右控訴人らに対し退去強制令書発付処分をしたが、右控訴人三名は右裁決及び発付処分の日から一年を経過してその取消を求めて本訴を提起するに至つた。これは当時右控訴人らと生活をしていた母である控訴人ラダ・ラニ・ジヤスワル(以下ラダ・ラニという。)が日本語をよく理解せず、かつ、控訴人プリテイら三名が即日仮放免されたことから、入国管理事務所を相手に争う必要がないものと考えたことによるものである。仮にこの出訴期間の徒過がその両親である控訴人ジヤガツト・ナラヤン・ジヤスワル(以下ジヤガツト・ナラヤンという。)、同ラダ・ラニの責めに帰すべきであるとしても、その不利益を当時未成年者であり、日本語をよく理解しえない控訴人プリテイら三名に帰することは極めて不当であり、行訴法一四条三項にいう「正当な理由」があつたというべきである。

2  出入国管理令による収容は、人の自由を制限するものであることにおいて刑事手続における逮捕、勾留と実質的に異なるところはなく、収容に至るまでの手続が慎重に行なわれる制度になつているとしても、その手続はすべて行政庁による追認の役割しか果しておらず、行政庁の行為に対する司法手続による抑制がなされていないから、憲法三三条、三一条に違反するというべきである。

3  法務大臣が出入国管理令(以下令という。)四九条一項による異議の申出が理由がないとしてこれを棄却する裁決は、令二四条各号の一に該当するとする入国審査官の認定に誤りがないとした特別審理官の判定の適否を対象としてなされるものであるが、この裁決に当つての法務大臣の判断は特別審理官の判定の適否のみに限定されるものではない。

すなわち、令五〇条は、法務大臣が、裁決に当つて異議の申出が理由がないと認める場合でも、容疑者が同条一項の各号のいずれかに該当するときは、特別に在留を許可することができると規定しており、特別在留を許可するときは、異議の申出が理由がある旨の裁決とみなして容疑者を釈放しなければならない。令施行規則三五条一項四号では、異議申出書に添付すべき不服の理由を示す資料として「退去強制が甚しく不当であることを理由として申し出るときは、審査、口頭審理及び証拠に現われている事実で退去強制が甚しく不当であることを信ずるに足るもの」をあげているのであつて、これらの規定を総合すると、法務大臣は異議申出の手続内で特別在留の許否をも判断するべきであるといわなければならない。従つてこれを容疑者からみると、法務大臣に対する異議の申出には、特別在留の許可を求める意思ないし申立が当然に含まれていると解すべきである。

要するに、法務大臣の異議申出に対する裁決と特別在留の許否の判断は一体としてみるべく、後者は前者の内容の一部となつているというべきなのである。従つて、特別在留の許可をしなかつた法務大臣の判断に誤りがあれば、異議申出に対する棄却の裁決に誤りがあることになり、その取消を免れない。

4  法務大臣の特別在留の許否を決定する権限は、法務大臣に与えられた固有のもので、その自由な裁量によつて行使しうるとしても、何らの制限のない全く自由な権限だとはいえず、その処分が、人道に反し社会通念上著しく妥当を欠くとか、正義の観念にもとるような場合は、「裁量の範囲をこえ又はその濫用があつた」として取消を免れないのである。

本件において、控訴人らに対して被控訴人法務大臣がした裁決はその裁量の範囲をこえ又はその濫用があつたというべく、取消を免れず、これを受けてなされた被控訴人主任審査官の退去強制令書の発付もその瑕疵を承継した違法のものである。

5  控訴人ジヤガツト・ナラヤンは〈証拠省略〉に記載されているような外国為替及び外国貿易管理法、関税法違反の犯罪を行なつたことはない。右控訴人は、右書証中で共犯者とされているアマルナス・セツトとは東京で共同事業を行なつたほか、共同で事業経営したことはなく、いわんや右のような犯罪を共同で実行したことはない。

(被控訴人らの主張)

控訴人らの前記主張はすべて争う。

(証拠関係)〈省略〉

理由

一  次の事実はいずれも当事者間に争いがない。

1  控訴人らはいずれもイギリス国籍を有する外国人で、控訴人ジヤガツト・ナラヤンは大正四年九月一日、その妻の控訴人ラダ・ラニは昭和二年一二月八日インドで出生した。控訴人プリテイは昭和二六年一〇月一五日、同プリムラタは同三〇年七月二六日神戸市で、同プラテイバは昭和三四年四月一七日香港で、控訴人ジヤガツト・ナラヤンを父、同ラダ・ラニを母として出生した。控訴人五名は今回本邦に入国する前は香港に居住していた。

2  控訴人ジヤガツト・ナラヤン、同ラダ・ラニは昭和三一年四月七日それまで在留していた本邦から出国した。

3  控訴人ラダ・ラニは、昭和四三年四月三日令四条一項四号(観光客)に該当する者としての在留資格を認定され、在留期間を六〇日と決定されて、本邦に入国した。同四五年三月九日韓国へ出国し、同月一二日再び本邦へ入国し、さらに同年五月一一日韓国へ出国し、翌一二日入国目的を「裁判所出頭のため」とする特定査証を受け、大阪入国管理事務所伊丹空港出張所入国審査官から令四条一項一六号、省令一項三号に該当する者としての在留資格を認定され、在留期間を一八〇日と決定され、本邦に入国した。

控訴人ジヤガツト・ナラヤンは、昭和四三年八月一四日令四条一項一六号、省令一項三号に該当する者としての在留資格を認定され、本邦に入国し、その後同四五年三月二八日香港へ出国し、同四六年一二月七日入国目的を「裁判所出頭のため」とする特定査証を受け、控訴人ラダ・ラニと同じ在留資格を認定され、在留期間を六〇日と決定され、本邦に入国した。その後控訴人ジヤガツト・ナラヤンは一〇回、同ラダ・ラニは一二回にわたり被控訴人法務大臣に対し在留期間の更新を申請し、いずれもその都度更新許可を受け(その最終在留期間はいずれも昭和四八年九月二七日までである。)、神戸市に居住していた。右控訴人両名は、同四八年九月一七日被控訴人法務大臣に対し在留期間の更新を申請したが、被控訴人法務大臣は同年一〇月二六日在留期間の更新を不許可とし、その旨通知した。

神戸入国管理事務所入国審査官は、昭和四九年四月二六日右控訴人両名が令二四条四号ロに該当すると認定し、その旨通知したところ、右控訴人両名は特別審理官に対し口頭審理の請求をした。これに対し特別審理官は同年六月六日口頭審理の結果、右認定に誤りがないと判定して右控訴人両名にその旨通知したところ、同両名は被控訴人法務大臣に対し令四九条一項に基づき異議の申出をした。被控訴人法務大臣は、同年七月二九日右異議の申出が理由がないと裁決し、その旨を被控訴人主任審査官に通知し、同主任審査官は同年八月一二日右控訴人両名に対し右裁決を通知すると共に、退去強制令書を発付した。入国警備官はこれに基づいて同両名を収容したが、被控訴人主任審査官は、控訴人ジヤガツト・ナラヤンの請求により同両名を仮放免し、現在に至つている。

4  控訴人プリテイら三名は、いずれも昭和四三年八月一四日令四条一項六号、省令一項三号に該当する者としての在留資格を認定され、在留期間を一八〇日と決定され、本邦に入国し、同四四年三月二四日被控訴人法務大臣から在留期間を九〇日に短縮されて期間の更新を受け、同四五年三月一五日香港へ出国した。その後同年七月三〇日大阪入国管理事務所伊丹空港出張所入国審査官から、令四条一項四号(観光客)に該当する者としての在留資格を認定され、在留期間を六〇日と決定され、本邦に入国した。そして同年一一月六日被控訴人法務大臣に対し在留期間の更新を申請していずれもその最終在留期間を同月二七日までとして更新許可を受けた。神戸入国管理事務所入国審査官は、同年一二月二一日控訴人プリテイら三名が令二四条四号ロに該当すると認定し、その旨通知したところ、同三名は特別審理官に対し口頭審理を請求した。これに対し特別審理官は同日口頭審理の結果、右認定に誤りがないと判定して同三名に通知したところ、同三名は被控訴人法務大臣に対し令四九条一項に基づき異議の申出をした。被控訴人法務大臣は、昭和四六年四月一四日右異議の申出が理由がないと裁決し、その旨を被控訴人主任審査官に通知し、同主任審査官は同年五月八日同三名に対し右裁決を通知すると共に、退去強制令書を発付した。入国警備官はこれに基づいて同三名を収容したが、同主任審査官は控訴人ラダ・ラニの請求により同三名を仮放免し、現在に至つている。

5  控訴人ジヤガツト・ナラヤン、同ラダ・ラニに対する本件裁決及び処分がなされた当時及び本訴訟が原審係属当時において右控訴人両名を当事者とする訴訟が両名の主張のとおり(原判決八枚目表四行目から同九枚目裏四行目まで、但し八枚目裏五行目からの(4)の訴訟は除く。)大阪地方裁判所及び神戸地方裁判所に各係属していた。

6  控訴人ジヤガツト・ナラヤンは、昭和三一年四月三日神戸地方裁判所において外国為替及び外国貿易管理法違反罪によつて懲役六月(三年間の執行猶予)及び罰金三〇万円の判決を受け、同判決は同三三年一月五日確定した。

二  ところで、行政処分の取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から三か月以内に提起しなければならず、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、正当の理由があるときのほかは、取消訴訟を提起することができない(行政事件訴訟法一四条一項、三項)。これを本件についてみるに、前記争いのない事実及び〈証拠省略〉によれば、控訴人プリテイら三名及びその母である控訴人ラダ・ラニは、昭和四六年五月八日に同プリテイら三名に対する被控訴人法務大臣の裁決と被控訴人主任審査官の退去強制令書発付処分のあつたことを知つたもの(右の当時控訴人ジヤガツト・ナラヤンは本邦に在留していなかつたことは前叙のとおりであるが。)と認めるべく、控訴人プリテイら三名の本件訴訟が右日時から三か月経過後の昭和四八年一一月一五日に提起されたことは記録上明らかである。控訴人プリテイら三名の本件訴訟が、同三名に対する前記裁決及び処分の日から一年を経過した後に提起されたことも同様に明白である。その提起について正当な理由があるものと認めることはできない。同三名は、その母である控訴人ラダ・ラニが日本語を理解せず、そのため出訴期間を徒過したものであつて、正当な理由があると主張するが・前記争いのない事実及び〈証拠省略〉によると、控訴人プリテイら三名及び同ラダ・ラニは同三名についての入国審査官の認定、特別審理官の判定に対し適式な不服申立、令五四条による仮放免の請求をしていることが認められ、控訴人ラダ・ラニは当時自己の財産を保全するべく弁護士に委任して民事訴訟を追行していたこと後記のとおりであることに照らし出訴期間内に本件訴訟を提起し得たものというべく、正当な理由があるものということはできない。

したがつて、控訴人プリテイら三名の本件訴は不適法である。

三  次に控訴人ジヤガツト・ナラヤン、同ラダ・ラニの取消請求について検討するに、当裁判所も、出入国管理令に基づく容疑者の収容手続は憲法三三条、三一条に違反するものではないと判断するものであつて、その理由は原判決理由(原判決三七枚目表七行目から三八枚目裏九行目までと同一である(但し、原判決三七枚目裏一二行目の「であつて、」の次に「実質上も刑事責任追及のための身柄確保に直接結びつく作用を一般的に有する手続とはいえないから、」を挿入する。)から、ここにこれを引用する。

四  控訴人ジヤガツト・ナラヤン、同ラダ・ラニは、被控訴人法務大臣の昭和四八年一〇月二六日の在留期間更新不許可処分は憲法三二条に違反すると主張する。

前記争いのない事実に〈証拠省略〉を総合すると、被控訴人法務大臣が右控訴人両名に対し在留期間更新の不許可処分をした昭和四八年一〇月二六日当時、控訴人ジヤガツト・ナラヤンを当事者とする民事訴訟が大阪地方裁判所に二件、神戸地方裁判所に一件、右控訴人両名を当事者とする民事訴訟が大阪高等裁判所に一件係属しており、同両名はいずれの事件についても弁護士に委任して訴訟を追行していたが、本人尋問のため自ら裁判所へ出頭することを要する事件もあつたことが認められ、控訴人両名が被控訴人法務大臣の前記不許可処分によつて本邦外へ退去するときは、右訴訟追行に事実上何らかの不便が生ずべきことは推察できないことはない。しかしながら、同控訴人両名は本邦外へ退去後も訴訟代理人によつて訴訟追行することは可能であるし、自ら出廷を要する場合には、その時点で出入国管理令所定の手続により改めて本邦に入ることを認められないわけではない。このように、右控訴人両名は、被控訴人法務大臣の右許可処分によつて本邦外に退去したとしても、これによつて直ちにわが国の裁判所において裁判を受ける権利を失うとはいえないから、被控訴人法務大臣の右不許可処分は憲法三二条に反するものではなく、右控訴人両名の前記主張は採用できない。

五  また、右控訴人両名は、被控訴人法務大臣は、同両名の在留期間の更新を不許可とし、令四九条一項による異議の申出が理由がないとの裁決をしたことにつき、その裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつたから、右処分、裁決は取消を免れないと主張する。

まず、令四九条一ないし五項、五〇条一項、三項、同施行規則三五条の規定にかんがみると、令四九条五項にいう法務大臣の「異議の中出が理由がない」との裁決においては、〈1〉容疑者の異議の申出に対応して特別審理官の判定を審査し、その結果これを是認する判断と、〈2〉不服審査とは別個に職権をもつて容疑者の在留を特別に許可すべきかどうか検討し、裁量の結果これを許可しない判断とがなされ、申立事項と職権事項とについての二つの判断が不可分的に一体となつて一個の裁決が成立するものと解すべく、後者の判断に違法の瑕疵があるときは、右裁決全体が違法とならざるをえず、容疑者はその申立事項に属しないところの、法務大臣の職権事項についての違法を理由として裁決の取消を訴求しうべき法的利益ないし資格を有するものと解すべきである。

ところで、国家は、特別の条約を締結していない限り、自国内に外国人を受け入れるかどうかを自由に決することができることは国際慣習法上確立された原則であつて、憲法も同じ考えに立つていると解されるところ、これを前提とした令二一条、四九条、五〇条等の規定によると、法務大臣は、令二一条三項の外国人の在留期間の更新を許可するかどうか、及び令五〇条一項の容疑者の在留を特別に許可するかどうかを、いずれも自由な裁量によつて決定することができ、その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当を欠くことが明白である場合に限り、その裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつたものとして違法となるにすぎないと解すべきである。この理は、当該在留期間更新申請にかかる外国人がそれまで在留期間の更新許可を受けたことがあるか否かによつて異なるところはない。

そこで、本件において、被控訴人法務大臣が控訴人ジヤガツト・ナラヤン、同ラダ・ラニに対し在留期間の更新及び特別在留をいずれも不許可としたことにつき、その裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつたかについて判断する。

前記争いのない事実に〈証拠省略〉を総合すると、後記事実及び原判決二七枚目裏一一行目から同三二枚目表一二行目までに記載の事実が認められる(但し、原判決二七枚目表一二行目の「ユー・エヌ・ジエーン」を「エイ・エス・ジエーン」と、同二八枚目表八行目の「に籍口して」を「した際」と、同一一行目の「外国貿易」を「外国為替及び外国貿易」と、同二八枚目裏八、九行目の「懲役六月執行猶予三年」を「懲役六月(三年間の執行猶予)及び」と各訂正し、同二八枚目裏一〇行目の「かくして、」同一一行目の「右貿易事業により富を築いて、」を各削除し、同二九枚目表一一行目の「九月一日」を「九月二一日」と訂正し、同二九枚目の裏七、八行目の「在留資格四-一-四の許可を受け、在留期間六〇日を付与されて」を「出入国管理令四条一項四号に該当する者としての在留資格を認定され、在留期間を六〇日と決定され、」と同三〇枚目表二、三行目の「一八日在留資格四-一-一六-三の許可を受け、在留期間一八〇日を付与されて」を「一四日令四条一項一六号、省令一項三号に該当する者としての在留資格を認定され、在留期間を一八〇日と決定され、」と各訂正する。)から、ここにこれを引用する。

すなわち、控訴人ジヤガツト・ナラヤン、同ラダ・ラニは、インド生のイギリス国籍を有する外国人で、その間に二女控訴人プリテイ、三女プリムラタ、四女同プラテイバ及び長女をもうけ、昭和三一年まで日本、インド等にその後香港に居住していたこと、控訴人ら家族は、昭和四三年から本邦の出入国を繰返し、同四五年、同四六年に控訴人ジヤガツト・ナラヤン・同ラダ・ラニは入国目的を「裁判所出頭のため」とする特定査証を受け、その余の控訴人らは観光客としての在留資格で本邦に入り、それ以来神戸市に居住して、控訴人ジヤガツト・ナラヤン、同ラダ・ラニは大阪地方裁判所等に係属する民事訴訟を追行してきたほか、特に事業に従事することなく現在に至り、その余の控訴人らは各種学校へ通学して速記練習をする等していること、以上の事実が認められ、〈証拠省略〉中の右認定に反する部分は〈証拠省略〉に照らし信用し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

以上の事実及び前掲各証拠によると、控訴人ら家族の現在における生活の本拠は神戸市にあるといわざるをえず、また大阪市、神戸市に不動産を所有しているのであるが、控訴人らは今回本邦に入るまでインド、香港で事業を経営して生活していたものであり、現在多額の預金を有しており、本邦から退去しても直ちに生活に困窮する懸念はなく、弁護士に委任して訴訟追行、財産管理は可能であつて、またこれについて退去によつて生ずべき不利益は控訴人らの入国目的、認定された在留資格に照らしやむをえないものとして甘受すべきものというべきである。してみると、被控訴人法務大臣が控訴人ジヤガツト・ナラヤン、同ラダ・ラニに対し在留期間の更新を不許可とし、特別在留を許可しなかつたことについて、その裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつたものとはいえない。

そうすると、被控訴人法務大臣の控訴人ジヤガツト・ナラヤン、同ラダ・ラニに対する前記不許可処分及び裁決が違法であるとはいえず、右裁決に基づいて被控訴人主任審査官がした退去強制令書発付処分についても違法の瑕疵があるとは認められない。

六  以上の次第で、控訴人プリテイら三名の本件訴は不適法として却下するべく、控訴人ジヤガツト・ナラヤン、同ラダ・ラニの本訴請求はいずれも理由がないものとして棄却するべく、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山内敏彦 高山晨 大出晃之)

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